研究・産学官連携の研究TOPICS 【研究者インタビュー】医学部皮膚科学講座 古賀 浩嗣 教授
本学の研究活動は多くの研究者により支えられています。このシリーズでは、研究者を中心に、研究内容やその素顔を紹介していきます。
皮膚科学講座について教えてください
皮膚科学講座では、皮膚疾患全般の診療を行っています。皮膚科が扱う疾患は非常に多岐にわたり、湿疹などの皮膚炎群、細菌・真菌・ウイルス感染症、水疱症や膿疱症、薬疹、良性・悪性皮膚腫瘍、皮膚リンパ腫などがあります。また、膠原病、自己免疫性水疱症、円形脱毛症、尋常性白斑といった自己免疫性疾患に加え、魚鱗癬群や先天性表皮水疱症などの遺伝性皮膚疾患にも対応しています。現在、私たちは12の専門外来を設け、薬物療法、光線治療、手術療法など様々なアプローチで診断と治療に取り組んでいます。
特に、私の専門領域である自己免疫性水疱症については、先代の教授方の時代から臨床と研究に取り組んできた歴史があります。
講座のポリシーとして大切にしているのは、皮膚科の臨床や研究に向き合い、それぞれが専門とする分野で患者さんや皮膚科学に貢献することです。皮膚科は専門分野が多岐にわたるのが特徴で、これを「サブスペシャリティ」と呼んでいます。病理診断、手術やがんの薬物治療、研究で得た知識を臨床に活かすなど、多様な働き方があります。私たちは、それぞれの専門分野の知識、経験、技能を持ち寄り、医局というチームとして成長しながら結果を出していくことを目標にしています。
研究者(医師)を志したきっかけと、現在の専門分野を選ばれた理由について教えてください
医師を志したのは、父親が医師であったことが大きいです。小さい頃に父親の診療所へ行き、幼心に医師という仕事がどういうものなのかを感じていたのだと思います。小学校の時点で、すでに医師になることを目指していました。
皮膚科を専門に選んだ理由も、父親が皮膚科医であった影響が大きいのですが、研修医時代に様々な科を経験する中で、改めて皮膚科を一生の仕事として考えたときに、魅力的な点に気づきました。それは、一通りのスキルさえあれば、目の前の患者さんの検査から診断、治療までを自分で行うことができるということです。一生の仕事として、これにやりがいがあるのではないかと思い、入局を決めました。
仕事で大切にしていること、やりがいは何ですか
仕事で最も大切にしていることは、とにかく興味を持って取り組むことです。何事も興味を持って取り組めば、表層に見えていること以外の、本当に面白い部分が見えてくると思っています。
その点、皮膚科は興味が尽きません。患者さんの診察中や病理の検討をしているときにも、発見があります。通常と異なる事象に気づいたときに「これはどういうことだろう」と調べてみます。論文などを調べて既に分かっていることならそれで良いのですが、もし分かっていないのなら、自分なりに深く考えてみる。そこから研究のテーマが生まれてくることに、大きなやりがいを感じています。
大学院に進学した理由とそこで得たことについて教えてください
大学院に進学する前は、皮膚科医として診療に必要なスキルを磨くことだけを考えており、研究のことは全く考えていませんでした。
きっかけは、当時の教授に「あなたは研究が向いてるかもしれないから、大学院に入りませんか?」と誘っていただいたことです。研究未経験でしたが、この誘いで「やってみようかな」という気持ちになり、大学院に進むことにしました。
研究を始めてみると、最初は分からないことばかりで、失敗続きでした。本質的に理解できていないので、うまくいかないときに自分でトラブルシューティングができず、思うように結果が出ないことに落ち込みました。
しかし、自分なりに調べて考えていく中で、少しずつ研究のことが理解できるようになりました。この時、臨床で当たり前のように利用していた外注検査も、先人の研究の成果であることに気づきました。そして、自分も何か社会に役立つ成果を生み出す「生産者」になりたいと思うようになりました。物事を深く知る過程や、何かを生み出そうとするマインドを持てるようになったことが、大学院で得た最も大きな成果です。
学位という資格自体に意義があるとは思いますが、最も大事なのは、研究にしっかりと時間をとって向き合い、研究成果を出す過程で得る「考え方のロジック」を身につけることだと思います。これがあれば、人生の色々な場面でブレずに物事を捉えることができる気がしています。
先生が取り組んでいる研究について教えてください
現在は主に、天疱瘡や類天疱瘡が含まれる自己免疫性水疱症の自己抗体の研究を行っています。
皮膚の接着に働く蛋白に対する自己抗体が患者さんの血中に存在し、その抗体が水疱を形成する事が分かっています。しかし、まだ分かっていない自己抗体もありますし、抗原が同定できていないものもあります。私たちは、そういった抗体について調べています。また、様々な自己抗体が検出されますが、その抗体による患者さんの症状の違いについても調査を進めています。
今後の展開としては、抗体が水疱を形成することは分かっているのですが、水疱以外の症状が主体となる病型もあります。それがどうして起こるのかは分かっていません。同じ抗体でも異なる症状を起こす機序について、今後解明したいと考えています。
皮膚科学講座で大切にしている教育方針はありますか
私が指導にあたる上で意識しているのは、皮膚科という学問の特性を理解してもらうことです。皮膚科は、目で見えるマクロの情報から、ミクロな病理組織像、さらに微小な変化を一連の事象として考えながら理解を深めるものです。つまり、「見えているものから見えないものを捉える」学問だと言えます。
マクロ、ミクロ両方の視点を整理して理解することで、診断力が身につきます。そして何よりも、分からないことを考えてみる習慣を持つことが大切です。そのようなことを意識して指導にあたっています。
休日の過ごし方やリフレッシュ方法はありますか
休日のリフレッシュ方法ですが、私の趣味はキャンプです。家族と行くこともあれば、医局の仲間と一緒だったり、一人で行くこともあります。
いつもと違うところで寝起きして景色を見るだけで、とても気分転換になります。特に、景色を見ながらぼーっとしていると、日頃仕事をしているときには考えないようなことを考える良い機会になったりもします。
海外留学の経験について教えてください
私はドイツのリューベック大学へ2年間、研究で留学しました。
当初は言語的にも文化的にも不慣れな環境で苦労しましたが、早く慣れるために、昼食は意識的に同僚と一緒に取るようにしていました。そうしていると、段々と話の内容もわかってきたし、自分も話せるようになって、お互いの考えが理解できるようになっていきました。そこからは本当に楽しかったです。
留学先には様々な国から来ている大学院生やポスドクが居て、仕事でのやり取り以外にも、プライベートで休日にホームパーティを一緒にしたり、フットサルをしたりと、色々なことを経験できました。海外での生活は大変貴重な経験で、人生観や物事の見方も変わりました。
若い研究者や医師を目指す方へメッセージをお願いします
私は最初から研究に興味があって大学院を目指していたわけではなく、目の前に出てきた選択肢に飛びついて、それをそのまま続けてきました。そういう意味ではイレギュラーな人生だったかもしれませんが、結果的に研究に取り組んで良かったと感じています。
医師は長く続けることができる仕事です。その長いキャリアの中で、研究の思考や知識を持っておくことは、モチベーションを保つ秘訣になります。長い医者人生を楽しく過ごすためにも、研究に取り組んでみることをお勧めします。そして、臨床に既に存在するリソースや情報を使っているだけの「消費者」ではなく、自分で生み出す「生産者」になることは、とても意義があることです。そのきっかけが大学院にはあると思いますので、ぜひ挑戦してみてください。
海外留学も人生を変えるような挑戦です。客観的に考えると不安や不都合ばかりが気になって消極的になってしまうかもしれませんが、一度勇気をもって飛び込めば、日本に居るだけでは想像もできない発見が待っています。チャンスがあればチャレンジすることをお勧めします。
略歴
2005年 久留米大学医学部卒業
2025年 九州医療センター研修医
2007年 久留米大学医学部皮膚科学講座助教
2009年 同大学大学院医学研究科入学
2013年 同修了(医学博士)
2013年 リューベック大学皮膚科Postdoctoral fellow
2015年 久留米大学医学部皮膚科学講座助教
2018年 同講師
2023年 同准教授
2025年 同主任教授